独立で成功した人のことば

通勤ラッシュや、嫌な上司とおさらばして、自由に働くことは夢物語なのか。そんなことはない。フリーランスとして成功した人から、その秘訣を学ぼう。  

アリアナ・グリーン=文 翻訳=ディプロマット


会社を辞める前に最低限考えておくべきこと


 会社から離れ、いわゆる「フリーランス」として独立する魅力は大きい。午前中のジョギングもありだし、自宅のバルコニーからはもちろん、パリのカフェからでも仕事は可能だ。子どもが病気になっても休暇願を出す必要もなく看病できる。

 しかし、独立は簡単なことではない。軌道に乗るには少なくとも1年はかかるだろう。

 まず次の定職が見つかるまでの一時的な策なのか、もしくは個人事業主という仕事で食べていくつもりなのかをはっきりさせよう。目標が定まれば、自ずと進む道も明らかとなる。

 短期間だけなら、求職活動の時間を確保しながらも、できるかぎり早く、多くの仕事を得ることだ。だが長期的な志を持って独立を目指すならば、より慎重に事を進めるべきだ。

 退職を決める前に、あるいは転職先を探すのをやめる前に、自分は専門分野でどれほど認められているのか、持っているスキルの需要はどれほどあるのかを検討してみよう。

 次に財政状況を考えてみる。自分や家族を養うためにはいくら必要なのか。貯金はあるのか、スポンサーはいるのか、家計を分担 してくれるパートナーはいるのか。もしそうした財源があるのなら、リスクを取る余裕もあるだろう。きちんと稼ぐまでには時間がかかるのが普通だから、長期 にわたってフリーで働けるのは、家計支出がより少ない人かもしれない。

 まずは、なぜ独立したいのか正確に認識することが大切だ。自分は何を望んでいるのか─自由か、柔軟性か、多様性か。起業して みたいのか、それとも単に上司の監督の下で、組織の一部として働くのが嫌なのか。固定給をもらい、それなりに安定した会社員と比べ、その価値観は自分に とってどれくらい重要なのか。自分の生き方を貫くため、不安定な環境にどれほど耐え抜く意思があるのか。

なぜ、労働時間半減で収入が倍増したのか


 今のような時代は、リストラされたときフリーになることを考える人も多い。しかし、不況下では、しっかりした顧客を持ってい る個人事業主ですら仕事は減るものだ。アメリカの労働統計局によると、米国の臨時雇員数は、2008年3月の250万人から09年3月には180万人に減 少した。事業を始めるなら、同じく仕事を探しているその他大勢との違いを明確にしなくてはならない。

 ビクター・チェンは、マッキンゼーのコンサルタント、先端技術担当エグゼクティブを経てフリーのコンサルタントに転じた。家 族が何よりも大切と考えて独立したと言うチェンは、次のように語る。「妻が最初の子を妊娠中、180日間も出張で家を空けた。家にいられたらもっとよい父 親になれるのではと考えたんだ」。
 もし、マッキンゼーでパートナー(役員)にまで昇進していたとしても、今のチェンの時給はそれをはるかに上回 るという。勤めを続けていれば週80時間にも達していただろう労働時間は今、30~40時間だ。出張もなく、午後は毎日二人の娘の相手をして過ごす。ビジ ネスコーチとして、不況期のマーケティング専門家として、また講演者・著作者として引っ張りだこのチェンは、こうして実に快適な生活を送っている。
「成功のために最も大切なことは、マーケットの需要を認知できること」と、チェンは言う。
「フリーになるとき『自分はXを売りたい』という思いで仕事を始める人が多い。『顧客はYを求めている』という認識に欠ける人ばかりなんです」
 チェンのように知名度があり、幅広いスキルを持ち、リスクを負うこともいとわないのであれば、フリーのコンサルタントとして独立を検討しても大丈夫だろう。だが、しっかりした実績なしに、クライアントを引きつけるのはおそらく難しい。


具体的にどんな準備が必要なのか


 とはいえ、落胆するのは早い。努力によって成功する道はある。
『Undress for Success: The Naked Truth about Making Money at Home』の著者で、銀行員からフリーランスに転じたケート・リスターは、フリーになると、フルタイム労働のような支払いを請求するわけにはいかないと指 摘する。「マーケティング、請求書の発送、ギャラの入金確認などにも時間を取られる。週40時間まるまる時給を稼ぐ時間に費やすことは難しいことを念頭に おいておかなくてはならない」。
 時給などの料金を引き上げるタイミングはどのようにしてつかんだらよいのだろう。リスターは「忙しくてすべての案件を引き受けられない状況になったとき、どの顧客を維持しておきたいかだ。顧客がちょうどよい数になるまで料金を上げてみるとよい」とアドバイスする。
 まだキャリアが浅い人の場合は、思い切った行動に出る前に、会社員をやりながら、週末や空いた時間でフリーの仕事を試してみたらよいだろう。
  個人事業主は経理からマーケティング、事務管理まで自分でする場合が多く、手間も時間も取られる。それを軽減するために、個人資産管理ソフトを使って請求 処理や記録保存に問題がないか試してみたらどうだろう。また、事業の手助けにフリーランスの簿記係を雇うのも一策だろう。十分な収入があれば、会計士を雇 うことも考えられる。


見込み客を得るため1日数時間を人脈づくりに費やす


 マイケル・エルスバーグは、3年間ほどベンチャーキャピタルや企業の営業で働いた後、数年にわたり、自著をはじめとする書物 の執筆・編集に携わっている。企画書作成コンサルおよびマーケティング専門家として売り込むのに十分な数の人脈を得た彼は、書籍についてはプロジェクト単 位で請求し、マーケティングについては時給200ドルを得ている。
 エルスバーグは1日数時間を信頼できる友人や見込み客との関係維持に費やす。そこで十分な仕事を確保して生計を立てることができると彼は言う。
 人脈によって仕事を獲得する最大の秘訣は「情けは人のためならず」だ。「1時間無料で相談に乗るのもいい。そうした相談者の50%?75%が顧客になってくれるのだから、結局は有意義な時間の使い方だったといえるでしょう」と彼は話す。


仕事を休むと即稼ぎがなくなる?


 仕事を休むと稼ぎがなくなるという思いに悩まされる人も多い。そんな人は、パリのカフェからの仕事などは夢のまた夢だ。
  こうしたストレスの中でどのようなタイプの人が成功するのか。リーダーシップ、キャリア、人生におけるコーチングを仕事としているテリー・ムッシュは、ま ず自分自身の傾向を理解することが必要だという。「自身の可能性を発揮するために一番いい環境を見つけ出すことが肝心だ」。自営に向いている人もいれば、 そうでない人もいるのだ。
 上司のプレッシャーなしに集中できる能力、立ち直る力、そして売り込みへの意欲を客観視してみよう。また、起業に際して必要な個人情報保護方針や契約要件などの法的問題、希望の料金をどう設定し、どう実現できるのかについても検討しよう。

 いろいろな懸念や検討すべき事項があるとはいえ、フリーランスというものは、それに向いている人にとっては驚くほどよい仕事 となる。就職先が見つからない若者、子を持つ親として在宅勤務を望む人、独立心旺盛な性格の人などに、フリーの身分は、多様な働き方の機会や相対的な安定 を提供しうる。
 だが一方で、かなりのやる気と自信が要求されることも事実である。結局、必要なのは、市場ニーズのある何かを持っていること、そしてそのことを多くの人に知ってもらうことだ。

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