カウンセラーを目指す人への警告!?

宗内敦さんという教育心理学者がおられて、大変耳の痛い提言をされています。しかし、私も常々似たような気持ちを持っていて、納得することしきりです。どうぞ自戒の意味も含めて、お読み下さい。


(以下、引用)

大変な心理学ブームです。大学受験人口が年々減り続け、どの大学も受験生の確 保に大わらわの時、心理学科だけが年々受験生が増え続け、心理学科の新設と増設が相次いでいます。臨床心理学者として、嬉しいような、悲しいよう な・・・。この異常なブーム、受け止め方にはいろいろ違いはあると思われますが、止むにやまれぬ気持ちで書いたのが下の文章 『「心理検査法」の試験を終えて』 です。これは私が出講した2000年度明星大学通信教育夏期スクーリング「心理検査法」のテスト終了後に、テスト感想文として、『めいせい』(2001 年、1月号)に寄稿したものです。心理学、とりわけ臨床心理学に興味・関心のある方、また、今学習の方々に、ぜひとも熟読玩味していただきたいと思ってい ます。


「心理検査法」の試験を終えて(感想・そのほか)

  まさに心理学ブーム、それもとりわけ、それカウンセリング、やれサイコセラピーといった、猫も杓子もの臨床心理学ブームのようである。國・公・私立を問わ ず、どこの心理学科も受験生がいっぱい、我が明星大学の心理学科も例外ではなく、受験人口漸減、大学淘汰の時代にも拘わらず、ここ10年、10倍を越える 競争率を誇っている。この通信教育でも、心理学関係の講座は実に多様な学生諸氏で満ちている。
  40年も前の、心理学科などどこも数倍程度の競争率で、まして大学院ともなれば就職浪人のオーバードクターがごろごろいて進学するのも躊躇われた頃(私の 学生時代)を思えば、なんともうれしい様変わり。が、喜んでばかりはいられない。否むしろ、悲しみ、心痛めているというのが、本音である。
  この思いはもっぱら、心理学を志向する学生たちの動機(心情)を推し量ることから、もたらされた。もともと、心理学を学ぶ者には自分を知ろうとする興味と 関心、そして、そうした興味・関心の起因でもある劣等感やコンプレックスが人一倍強いが、なかんずく、臨床志向の者には顕著である。
  以下の諸ケース、特殊な例と思わず、心して読んでほしい。

① 比較的若い(といっても40に手の届きそうな)臨床心理学者の例である。どのように説得しても彼の所属する流派が行う研修会への参加を拒み続ける指導学生に対し、吐き捨てるように言った。「おまえは、まるで“クライエント”みたいな奴だ」。
② 某カウンセリング研究会での出来事である。どんな文脈かは忘れたが、あるドキュメンタリー作家の話題がでた。作家と私の息子同士が知りあいだったこと もあって、私はふと、そのご子息が自死していく刻一刻を情をこらえて冷徹に描いた作家の偉業についてふれた。と、間髪を入れず、心理カウンセリングを生業 としているというカウンセラーが、言った。「私じゃないが、当時、私の友人が彼を“カウンセリング”してますよ」。
③ 某県における、家庭裁判所少年審判部と中学校生徒指導部会との連絡協議会でのこと。県教委からスクールカウンセラーを委嘱されている病院心理士(臨床 心理士)が、参考人として招かれ、県内スクールカウンセラーの実状を説明した。その折り彼が提出した自作のカウンセラー名簿には“資格”欄なるものがあ り、臨床心理士の資格取得者だけが“有資格”で、あとは、精神科医・大学教授(臨床心理学者)など、おしなべて“無資格”とされていた。
④ 友人の場合である。緊急の用で、久しぶりに電話をかけることになった。が、何度かけても「ただいま執筆中で、出られません」。仕方ないので、とうとう 名乗って、電話をほしい旨、留守電に入れた。しかし、その後も留守電に何度か入れたが、ついに返事は来なかった。半年ほど後、ある会で出会ったとき、私に 問われて、彼はこう言い訳をした。「あ、電話ね。表に出してる電話は“クライエント”用で、出ないことにしてるんだ。“クライエント”はいろいろとうるさ くて面倒だから」。それ故、私の電話は知らなかった(聞いてなかった)というのである。彼は、こう付言した。「必要なら、書斎直通の電話番号を教えよう か」


 このような、いわゆる“心理臨床家”のコンプレックスに満ち満ちた反動形成的傲岸さを示す例は、挙げるのに何の苦労もないが、これらの例は、結局のところ、心理臨床家について、下記の如き事柄を明示している。

① 一般に、心理臨床家は人一倍強い劣等コンプレックスを持っている。
② そのコンプレックスは、(様々に競争的な)対人関係の中で培われ、
③ それを解消し、補償する絶好の機会としてクライエント関係を利用している。
④ カウンセリング関係の中で癒されているのは、むしろセラピストの方である。


 極論すれば、“心理臨床家”というもの、自分たちより明らかに情緒的、人格的に“劣っている”と認知できる人たち(クライエント)の存在があって初めて優越感情を味わい、心の安定(劣等感の払拭)が得られる。臨床家になろうとした当初の狙いも、実はそこにあった-。
 こうした構図そのままに、昨今、臨床心理学を志向する若者が増え続けている。すなわち、学校競争社会の中で敗れ、傷つき、成熟の遅れたたくさんの心弱い 若者が、(本来はクライエントたるべき資質や動機や方向性を強く有していながら)、声高にスクールカウンセラーの必要性とその配置をアピールする文部省の 動きとも連動して高まる世の中あげての臨床心理学ブームを背景に、自己の劣等コンプレックスを解消すべく、強者(セラピスト)になって弱者(クライエン ト)を救済するという無意識裡の補償願望を抱き、今、各地の心理学科に殺到しつつある。
 私が冒頭に嘆いたのは、まさしくこれであった。
 そして私は、こうした構図の中にある“心理臨床家(学徒)”らの致命的な勉学・学習態度を恐れるのである。すべてがそうだと限りはしないが、彼らの多く は、それが臨床心理学のほんの一部分であるとは知らず、また臨床心理学が人間探求心理学の単なる一領域であるとも思わず、まして心理学が、文学、哲学、倫 理学、経済学、社会学、教育学……、さらには音楽、絵画、彫刻といった芸術(学)など、様々な人間学の一端に過ぎないとは分からず、一握りのカウンセリン グやサイコセラピーだけを「人間学」と心得、広く(人間学を)学ぶを忘れ、結局、「木を見て森を見ざる」となって、人を見る目も癒す力も、けっして養いは しないのである。
 折しも、作家・三島由起夫が「仮面の告白」を書いた後に精神医・式場隆三郎に当てて出した“クライエント書簡”の存在が新聞で報じられた。そこには、 「仮面の告白」の主人公、即ち三島自身の性愛異常(性同一性障害)の苦しみを赤裸に告白して救いを求める作家・三島由起夫の悲痛な叫び声が聞こえるが、も し目の前のクライエントがその三島由起夫だとしたら、果たして私たちは、侮蔑・憐憫・優越の感情を超えて、彼の病理を正しく理解し、受け容れ、平癒に導く ことが出来るのだろうか。サイコセラピーへの不純な動機と狭隘極まる人間理解。これでは無論、誰にも全く出来ようはずもない。-そして、苦悩の果てに訪れ てくる多様なクライエントは、その理解の難しさ、治療の難しさにおいて、みな「三島由起夫」と同じであり、その困難さの程度は、生体検査や薬物・外科処置 等をもって行う医学的診断・治療を遥かに超えるものなのである。
 さて、下記のシラバスに従って「心理検査法」の講義・実習を行う中で、臨床心理学関係分野を学ぶときの内省すべき事柄として、私は上述の如き内容を明示 的、あるいは示唆的に述べてきた。この度の試験において実は、これらの何ほどでも、皆さんの解答に現れることを期待していた。各種心理検査の内容に即し た、それなりによい解答もけっして少なくはなかったが、しかし、出題者の意に叶った答案は一つきりであった。参考までにそれを揚げてこの感想文の締めとす るが、よく熟読し、ここからもまた、私の意図するところを汲みとって頂きたいものである。
 ついでながら、この答案に見られる文章表現力と構成力は、大いに模範とすべきものであろう。(以下省略)

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コメント: 1
  • #1

    宗内敦 (書肆彩光) (水曜日, 27 6月 2018 08:32)

    思えば20前、明星大学在籍時に書いた私の文章、引用・紹介下さって有難うございます。このほど、この文章も含めて、「児童心理」「教育心理」そのほか各種啓蒙雑誌に書き綴ってきたエッセイ的論考を纏めた『エッセイで読み解く教育・指導のエッセンス』(書肆彩光)なる文庫本を出しました。おこがましくも、家庭教育、学校教育、心理臨床にたずさわる方々への警醒書のつもりです。「書肆彩光」は、心ある方々へ私の著作を届けるために興した、私の自著自費出版社です。お買い求めなくとも、日本郵便の「スマートレター」をお送り下されば、どなたへも、差し上げます。第2刷、50部用意しています。どうぞ、ご遠慮なく、ご連絡下さい。

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