昨今、「日本の自殺問題は経済問題だ」と いう論調に出くわすことがあります。確かに、日本の場合、完全失業率と自殺率とを座標軸上にプロットしてみると、両者が並行して動いているように見えま す。しかし、「自殺予防対策は経済対策である」とか、「経済が好調であれば自殺問題は解決する」と言われて、納得できるでしょうか。
日本では、経済問題を抱えて自殺をされた方がたくさんいます。しかし、経済問題や失業が、即座に自殺に結びつくわけではありません。自殺は複雑事象であり、ある人が自殺に至るまでには、そこに複合的・多元的要因とプロセスが存在しているのです。
実際に、国内外のさまざまな先行研究から、自殺の危険予測因子というものが明らかにされています(下表)。 「経済問題=自殺問題」のような極端な強調化はもとより、他にも自殺には多くの誤解が付きまとっているように思われます。自殺企図者や自殺行動の実態ない しは真実、そして下表にあるような危険予測因子については、医療現場においてもまだ十分に認識されているとは言い難いのではないでしょうか。
挙げられている自殺予測危険因子のうち、 自殺念慮はそれ単独で速やかな危機介入が必要となります。また、これらの因子を複数有する患者では、特に危険度が高いと考えられます。実際に、自殺企図者 の多くは複数の因子を抱えています。表には経済問題が挙げられていますが、北欧のスウェーデンやデンマークのように、失業率の大きな浮き沈みに拘わらず、 この20年間で順調に自殺率が低下し続けている国家があるということを銘記すべきです。これらの国々では、国家や地域で自殺予防対策が着実に実施され、国民のためのセーフティ・ネットが整備されてきました。
自殺の危険予測因子
[訴えや態度]
死や自殺の願望・意思
絶望感やあきらめ
[既往歴・家族歴]
自傷・自殺企図の既往
自殺の家族歴
[生活環境、ライフ・イヴェント]
親しいものとの離別・死別
失業や経済的破綻
孤立
[症状、疾病]
精神疾患の罹患
悪性腫瘍をはじめとする進行性の疾患、慢性疾患
身体機能の喪失
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