開業に必要な基礎知識として、融資を受ける際に必要な「経営計画書の作り方」を考えてみましょう。
●1 ビジネスの魅力を表現しよう
必要資金調達のために金融機関への融資を希望するときに、避けて通れないのが経営計画書の作成です。小難しいもののように思えますが、経営計画書とは要 するに、自分の考える商売のやり方を第三者に説明するためのものです。「何のために事業を行うのか」「どのような商品をどこから仕入れ、どこで、どうやっ
て、誰が販売するのか」など、独立開業に当たって必ず考える内容を書面に表しただけのものです。
「起業したい」という個人的な希望を実現するために第三者のサポートを求めるのであれば、事業の性格や魅力についての説明を尽くすのは当然のこと。経営計画書は、相手に自分の考えていることをしっかりと理解してもらうための手段だと思ってください。
●2 経営計画書の書き方
ここでは日本政策金融公庫のWebサイトでダウンロードできる「創業計画書」をテンプレートとして取り上げます(画像はクリックすると大きくなります)。
1 創業の動機
強く熱い気持ちが無いと商売は続きません。中途半端な気持ちなら、最初からやらない方がよいでしょう。「本当にこのビジネスを始めたい」「このビジネスを通じて、○○を良くしたい、貢献したい」など、自分の言葉で自分の「思い」を表現してください。
2 事業の経験など
この欄にはこれまでの事業経験などについての「事実」を記入します。隠してもよいことはありませんので、ありのままを記入しましょう。具体的には、「今 まで自分で事業を経営していたことがあるかどうか」「今から開業しようとする事業について、従業員としてでもよいので経験があるかどうか」「資格」「借入 金の有無」を記入します。
3 取扱商品・サービス
この欄には、販売する商品・サービスを、具体的に3種類記入します。また、売り上げ全体のうち、それぞれの商品・サービスの占める割り合いを「売り上げ シェア」の欄に記入します。セールスポイントの記入欄には、「製品のどこが売りなのか」「同業他社と比べてどこが違うのか」「どこにこだわっているのか」 などを記入しましょう。
「どこが売りかなんて言われても……」と思うかもしれません。しかし、「売り」が無いサービスや商品に新規のお客さまはつきません。開業した後で商売が順調に伸びていくかどうかは、この「売り」や「強み」を持てるかどうかに尽きます。
自分の作る商品・サービスそのものが秀でた特長を持つものなのか、あるいは技術そのものよりも、その技術を提供する話術が自分の「売り」なのか。これらの「売り」や「強み」を認識して、それをアピールすることが、ビジネスを成功に導くための近道といえます。
4 取引先・取引条件など
この欄は、「販売先」「仕入れ先」「外注先」の主な取引先を幾つか記載します。そして、取引先の全体における占める割合を記入します。例えば、販売先の中でA商店が、売り上げ全体の80%を占めるような場合には、シェアの欄に80%と記入します。
次に、それぞれの回収支払いの条件を記入します。取引を開始する際に、この回収支払いの条件をないがしろにするケースが非常に多く見受けられます。開業 した後で分かることですが、回収支払いの条件は、資金繰りに大きな影響を与える非常に重要な問題です。融資を申し込む前に、現金での回収支払いの有無や、 何日締めか、決済されるのはいつなのかを、きちんと頭に入れて記入してください。
●3 必要な資金と調達方法
創業計画書の2ページ目は、計画を数値に落とし込むための表です。これまで説明してきた開業準備資金や運転資金をそれぞれの区分ごとに記載したもので、現時点で考えている資金の調達先を記入します。
開業準備資金を左上の「店舗、工場、機械、備品、車両など」の欄に、運転資金は左下の「商品仕入、経費支払資金など」の欄に記入します。右側には「これ らの資金をどうやって調達するのか」を、区分ごとに記載します。「日本生活金融公庫 国民生活事業からの借入」という欄に書き込むのが、日本生活金融公庫 への借り入れ申し込み額です。
数値計画の2つ目は、事業の見通しを数値(金額)で表わしたものです。「1カ月当たり幾らの売り上げを稼げるのか」「仕入は幾らか」「その他の経費は幾ら掛かるのか」、そして「利益は幾らか」を、「創業当初」「事業が軌道に乗った後」の2段階に分けて記入します。
この表に金額を入れるためには、第1回「資金計画の立て方」で使った表をベースに、下のような表を作って、月ごとに計画を立案するとよいでしょう。
この表は、何度も試行錯誤して書き直しながら完成形に近づけるものです。従って、PCの表計算ソフトを使うか、手書きで作るのであれば、後から修正できるように、鉛筆で記入してください。
書き方を順に説明していきましょう。
1 売り上げ高
最初は思いつくまま、売り上げの金額を埋めていきましょう。
無理を承知で最初は計画してみてください。開業以降、売り上げを幾ら獲得していくのかを月ごとに記入します。上の表では3カ月分しか欄を作っていませんが、1年分を計画しておきたい場合は、12カ月分を作成して記入してください。
2 売り上げ原価
売り上げ原価とは、売り上げた商品・サービスの仕入値のことです。900円で仕入れた商品を1000円で売った場合、粗利益は100円(=1000円-900円)で、下記算式により「粗利率は10%である」と言います。
この「粗利益」をいかに稼ぐかが、商売の基本です。
例えば、1カ月当たり100万円の粗利益を目標にしたとき、粗利率が10%の商品Aと、粗利率25%の商品Bをそれぞれ売った場合、売り上げはどれぐらいの差が出てくるでしょうか。
A 売り上げ高=100万円÷粗利率10%=1000万円
B 売り上げ高=100万円÷粗利率25%= 400万円
Aは1000万円の売り上げを稼がないといけないのに対し、Bのように利幅の高い商品であれば、売り上げ高400万円で粗利益100万円が達成できま す。このことを頭に入れた上で、自分が売ろうとしている商品・サービスの粗利率が何%なのかを考えて、売り上げ高、売り上げ原価、粗利益を記入してくださ い。
3 経費
引き続き、経費の欄に書き込んでいきましょう。経費を各項目に分けて、それぞれの月に想定される経費の額を記入します。その際に注意しないといけないのは、下記の3点です。
・開業当初から従業員を雇用する場合、計画通りの売り上げを上げるためには、従業員は何人必要で、給料はいったい幾ら必要なのか
・計画通りの売り上げを上げるための経費として不足はないか
・何カ月目から利益が出るのか。赤字の期間に必要となる運転資金に余力は残されているか
経費だけを見て算出するのではなく、計画表に埋めた売り上げ計画を見ながら記入してください。「売り上げ計画を達成するために必要な経費の金額が幾らなのか」を頭に浮かべながら記入することが大切です。
最後に自分の立てた数値計画をじっくりと眺めてもう一度検証してください。そして、この数値計画に異常が無いかどうかを判断しましょう。
例えば、3カ月目の売り上げが100万円で、4カ月目の売り上げが200万円と記入した場合、「1カ月で売り上げを2倍にすることが本当にできるのか」 「もし2倍にするのなら、お客さまを何人増やさないといけないのか」「お客さまに対応している時間を何倍増やさないといけないのか」「何を売らないといけ
ないのか」。そうしたことをきちんと細かく考えて、それが1カ月約30日間のうちに実行可能なのかを検証してみましょう。
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