がんと診断された患者が診断後1年以内に自殺する危険性は、がん患者以外の約20倍に上るとの調査結果を、国立がん研究センターの研究班がまとめた。こ の調査結果は、国民の半数ががんになる現代の日本に重い課題を突きつけた。医療関係者や患者団体からは「衝撃的な数字」という驚きとともに、患者や家族へ のサポート体制の充実を求める声が相次いだ。
【がん診断後1年以内に自殺】危険性は他の20倍
関東地方の50代の男性会社員は、初期の舌がんと診断されて間もなく、自ら命を絶った。診断後は仕事を続けるか悩み、がんを切除する手術などで話せなくな ることへの不安を漏らしていたという。男性の知人は「(自殺するような)そぶりは全く見せなかったので気付くことができなかった」と悔しがる。
内閣府と警察庁の自殺統計によると、2013年の国内自殺者2万7283人のうち、原因・動機に健康問題を含むケースが1万3680人と半数を占めた。 また、NPO法人「自殺対策支援センター・ライフリンク」が13年にまとめた自殺実態白書では、がんを含む病気は、職場環境の変化や生活苦、うつ病の発症 など、自殺の危険性を高める要因を引き起こしやすいことが指摘されている。
国が12年に策定した「がん対策推進基本計画」(12~16年度)は、がんの診断時から、精神的苦痛のケアを含めた緩和ケアを患者と家族が受けられる体 制整備を目標に掲げた。しかし、全国のがん診療連携拠点病院(397施設)でも昨年11月時点で精神科医がいる病院は251施設(63%)止まり。入院患
者への緩和ケアチームがある病院も156施設と4割に満たない。さらに、いまだに「緩和ケア=終末期」との誤解は根強く、早期からのケアには医療者も患者 本人も積極的ではないのが実態だ。
国立がん研究センター中央病院の里見絵理子・緩和医療科長は「患者が抱える苦悩の大きさを改めて示す衝撃的な結果だ。がん診療に携わるすべての医療者 が、がんと共に生きる社会生活や心理面の苦痛に対する支援の重要性を理解し、診断段階からの緩和ケアに取り組むことが求められる」と話す。
患者自身や周囲の人々の姿勢も、悲劇を減らすカギを握る。血液がんの患者会「グループ・ネクサス・ジャパン」の天野慎介理事長も「一人で抱え込まないで ほしい。がん診療連携拠点病院の相談支援センターの存在などを、もっと知らせる必要がある」と訴える。【下桐実雅子、清水健二、永山悦子】
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